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カンヌライオンズ2016、個人的に気になった作品(痺れる作品とインチキ作品)

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カンヌライオンズ2016が終了しました。アワードのカテゴリーが年々追加され、ライオンズヘルス、ライオンズエンタテインメント、ライオンズイノベーションと、スピンオフイベントが展開されるに伴い、ほとんど表に出ないながら昨年上場を果たしたオーガナイザーの収益も天井知らず、ということのようで羨ましい限りです。この拡大はどこまで続くのか、興味は尽きません。

以下、いくつか気になったエントリー作品です。(以前ブログで触れた作品以外)

SONIC「#Square Shake」

 
インスタグラムの画角が正方形であることを意識した商品開発企画。ファストフードレストラン「SONIC」が普段販売しているシェイクを野外フェス「コーチェラフェスティバル」会場限定で、スクエア型にアレンジして販売。これにより、商品がインスタグラムと絶妙にフィットするというわけです。
ソーシャルにフィットする商品企画をやっている企業は少なくないですが、スクエアにするという発想が新しく感じました。

JUKEDECK

 
AIを利用してオリジナルの楽曲を作成できるオンラインサービス。カテゴリーは「FOLK」「ROCK」「ELECTRONIC」「AMBIENT」の4種類、曲調は「UPLIFTING」「CHILLED」「SCI-FI」から選ぶ。そして曲の長さを指定すると数十秒で楽曲とジャケットが生成されます。著作権フリーというのが素晴らしく、AIが世界を良くしている感じがあります。しかし、エントリー作品がSXSW-Likeです。

Beats by Dre「#Straight Outta Somewhere」

 
Dreも参加していた世界一危険なグループ、N.W.Aの伝記的映画「Straight Outta Compton」のプロモーション。映画タイトル「コンプトン刑務所から直接行くぜ!」にちなんで、オリジナルの「○○から直接行くぜ!」ロゴを作成し、写真と合成するだけのシンプルなAppなんだけど、デザインが素晴らしく、かなり拡散していた記憶あります。映画ロゴがN.W.Aのストーリーを描いているのと同様に、ユーザーが自分自身のストーリーを語ることができる(ユーザーにストーリーを作ってもらう)という仕掛けが良いです。最近は小細工のある企画が多いだけに、こんな力強さが気持ちよいです。

I SEA

 
地中海の衛星写真をリアルタイム表示し、シリア難民が大量に乗り込んだ船を発見できるiPhone App。今、欧州で大きな話題となっているシリア難民問題をとらえた企画なんだけど、この衛星画像がリアルタイムではなく、固定された静止画で難民船など発見できないことが発覚。直ちにApp Storeから削除されたものの、ブロンズを受賞するという事件が起こりました。
これまでも、一部しか関わっていないのに全体プロデュースしたように見せるとか、インチキはありましたが、ここまで大胆なインチキは珍しいのではないかと思います。これが氷山の一角なのかどうか気になります。
(via mUmBRELLA)

Co-op「The Organic Effect」

 
スーパー「Co-op」(スウェーデン)によるオーガニック食品のプロモーション。スウェーデンの典型的な5人家族に2週間100%オーガニック食品で過ごしてもらう実験を実施。国の研究機関と連携し、尿検査などで実施前と実施後の体内の変化を細かく分析。実施前は、体内に殺虫剤に含まれる有毒物質を検知していたが、実施後は全てなくなったというものですが、これにも問題発生です。
従来、スウェーデンの有機農業は部分的に農薬を使っていて、それらの物質に対するテストがなされていないことから、虚偽広告の罪で訴訟沙汰の様相です。また、人体における化学物質の許容量についても無視されていると批判されています。
「The Organic Effect」をPR部門グランプリに選んだ審査員責任者は「カンヌは個々の作品についてリサーチする権限はない」とコメントしました。
 
アワードの健全性の担保はかなりの部分、エントリーするクリエーターに委ねられていますが、賞が報酬や市場の評価につながることもあり、今後も同種の問題が起こりそうです。例えば、スポーツ界におけるドーピングのように、問題を起こしたエージェンシーは何年間か一切のエントリーを禁ずる、みたいなことがあってもよいかもしれませんが、カンヌライオンズのオーガナイザーが昨年上場を果たしたことから、成長を義務付けられる立場であり、大きな資金源であるエントリー料低下につながる決断をできるかどうかも微妙なところです。
 

ソーシャルメディアスターが「涙のソーシャル引退宣言」し、逆に「ソーシャルメディアと闘う戦士」になってリブランディングを図ろうとするも、意図がバレて悲劇的な結末を迎えるというパーソナルブランディングの困難さを物語る話

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ソーシャルメディアを駆使してパーソナルブランディングを実行し、一儲けしている人はたくさんいらっしゃいますが、この分野もかなり競合がキツイ状況になっていることはだいたい察しがつきます。これは1人のソーシャルスターが競争から一歩抜け出そうと、大博打に打って出て、悲劇的な結末を迎えるという話です。

※これ、昨年末の話で、途中までは知っていたのですが、最近その結末を知って驚いた次第で、今頃ブログ記事にします。

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Instagramで50万人のフォロワーを持つEssena O'Neill(オーストラリア)は、ファッションブランドなどをクライアントにモデルとして稼いでいたのですが、ある日突然「全てのソーシャルメディア活動を辞める」と宣言しました。理由は「偽りの自分を演じることにつかれた」とのこと。腹をひっこめ、ポーズを計算し、日々フォロワー数やいいね!数にとらわれることに空虚さを感じたそうです。(よくありそうなことです)

これが、泣きじゃくりながら、ソーシャルメディア引退を語るビデオ(を紹介したビデオ)です。

 

 
そして、彼女はそれまでに投稿した2000枚のInstagram写真を即座に削除し、それだけでは満足せず、逆に「ソーシャルメディアという新興宗教と戦う」という名目で"Let's Be Game Changer"を立ち上げました。
 
これがその声明です。女性の共感を意識してか、ノーメイクです。
 
 
しかし、彼女は"Let's Be Game Changer"のブログを通じて「スポンサーからの支払いなしで家賃が払えない」と、ファンにダイレクトに寄付を求めたり、ファン向けに本を出版するという計画もあることを公表しました。
 
ん? あの涙は何だったんだろう...という感じがじわじわ来ます。
 
そこに「Essenaの行動は全部インチキだ」というもう1つのストーリーが、彼女と一緒にロスで遊んだというYouTuber "Nina & Randa"やその弟"Willie Nelson"によって投稿されました。また、彼女に近い存在のオーストラリア人からもFacebookTwitterを通じて告発がありました。
 
 
つまり、Essenaによる「涙のソーシャルメディア引退宣言」は彼女のリブランディングのための大芝居だったというわけです。ソーシャルメディアで成りあがった女子が、そのソーシャルメディアと闘う戦士になり、ソーシャルアカウントを持たずして、ファンのチカラを使ってソーシャルヒロインになる...よくできたストーリーです。新陳代謝が早く、コンペティティブなソーシャルメディアでスターの座をキープし続けるのは並大抵のことではなく、このぐらいやらなきゃならないんでしょうか。
 
この話、ソーシャルメディアを巡る現代人の病を物語っているようにも見えますが、自分は18才の少女の大胆な行動力を称賛したい気もあります。いい歳した自分は何も行動できていないので。
 
残念なことに、現在では、ソーシャルメディアという新興宗教と戦うために開設した"Let's Be Game Changer"は、Coming Soon状態に逆戻りしています。Essenaには、不屈の精神でもう一回起き上がって欲しいです。
 
(via Mashable)
 
 
 

ギャラリー空間を覗きこむ巨人。セルフィ企画に狂ったように押し寄せる人を見て、セルフィが21世紀の偉大な発明であると感じた次第です。

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ギャラリー空間を覗きこむ巨人。よく見るとミニチュア模型ギャラリーが用意されていて、人が覗き込むことで、こんな写真ができあがる。世の写真の半分以上がセルフィではないかと思われる今にピッタリな企画です。ちょっと「進撃の巨人」っぽくもありますが、とっても精度が高いです。

ミニチュアは全部で4タイプ用意されています。これはルーベンス展開催中のルーブル。細部までこだわっています。女性の長い髪がフロアに広がる感じがいいです。

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ダミアン・ハースト展開催中のテートモダン。最近、毒ガスを発することが明らかになった出世作「Natural History」もディスプレイされております。

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ロイ・リヒテンシュタイン展開催中のガゴシアンギャラリー。

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この企画の作者であるTezi Gabunia展開催中のサーチギャラリー。

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"Put Your Head into Gallery"となづけられたこのプロジェクトの撮影模様です。イベントとして実施したみたいですが、長蛇の列です。セルフィへの異常な関心が現れています。セルフィは21世紀の偉大なる発明です。

 

 
作者のTezi Gabuniaによると、テーマは「Falsification」(改ざん)。デジタル時代になって真実と嘘の境界線がよくわからない状態になっていることに対するメッセージだと思うのですが、そんなこと横に置いておいて、とっても楽しそうな企画だと思う次第です。

いじられるエリザベス女王を見て、白々しくない偶然を仕込んでみたいと思った

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ちょっと前の話ですが、英国・エリザベス女王の90才のバースデーパレードが行われました。女王の鮮やかなグリーンの洋服が印象的です。

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ところが、この「グリーン」によって、クロマキー合成が可能となり、いろんなコスプレ写真がネット上に投稿されるという事態が起こりました。

バットマンにされたり、近衛兵にされたり、かなり遊ばれています。

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一時期、「ストーリーテリング」ってワードが広告業界バズワードになりましたが、ブランドが語った所で記憶の中にどのぐらいとどまるのか、という点で個人的に疑問がありました。その点で、ストーリーは「語る」より「つくってもらう」方がよいのではないかと思ったのですが、この女王のケースはその典型ではないかと思います。
 
女王のケースは、そんなことを狙ってグリーンの衣装を着たわけではなく、偶然だと思うのですが、結果的に女王の「愛されてる感」が現れていて、微笑ましく感じる次第です。こういう「白々しくない偶然を仕込む」ということをもっと考えたいです。
 

公園の大木にネットを張れば、そこは至福の空間に。

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広々とした芝生と豊かな木々がある公園は、それだけで憩いの空間であるわけですが、さらに一工夫することで、そこら辺のアミューズメント施設では到底及ばない魅惑的な空間になります。

これは、イタリアの南チロルで行われた"Art & Nature"ってフェスティバルで公開されたクロアチア / オーストリアのデザインスタジオ"Numen / For Use"の作品。公園にある大木にネットを張るだけで(張るのはすごく大変なんだけど)、強烈な吸引力を感じる次第です。

昼寝したり、本読んだり、ただただまったりしたり、カップルでいちゃいちゃしたり...。いやぁ、いいです。

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シンプルな施設ながら、構造はかなり複雑、職人技が駆使されております。

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VRとか先端技術もいいんですが、個人的にはこちらが好みです。家の近くに欲しいです。

(via Contemporist

5日間に渡り、次々にストーリー性のある10秒動画をSnapchatに投稿し続け、フォロワーを唸らせ続けつつ、それらをパッケージ化してオンデマンド配信する映像ビジネス

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Snapchatが日本でもじわじわ来ております。ネット有名人たちも続々参入し、「Snapchatはじめたよ! 」(フォローしてね!)的投稿も目につくようになりました。Snapchatと言えば、リアルタイム性が強く、5~10秒で消滅し、二度と拝めないという儚さ、それ故のリアリティみたいなところがウリなわけですが、アメリカでこの特徴を活かした興味深い試みがなされております。
 
発端になったのはアメリカのソーシャルメディアインフルエンサー Andrea Russett(@andwizzle)の投稿。Russettは4月下旬~5日間にわたり、10秒映像を毎日数十本投稿(24時間で消滅)。それらを続けて見るとストーリーになっているという仕組みです。タイトルは"Sickhouse"。若者グループがキャンプに出かけ、そこで発見した不気味な小屋を巡るスリリングな物語です。
 
 
Snapchat らしい荒い映像です。何か「ブレアウィッチプロジェクト」を彷彿とさせます。テレビを通じてドラマを観た瞬間、それがフィクションであることは疑いのないことですが、それがSnapchatになると、現実に進行しているように感じて、没入感が何倍にも膨れ上がるのではないかと思う次第です。没入感というとVRですが、そういった技術を駆使するのとは別の方法で「没入感を生む」という点でSnapchatというプラットフォームは偉大です。
 
5日間にわたり、リアルタイム(風)に進行する物語は、50万人を越えるRussettのフォロワーを起点に1億人に拡散し、「Andreaはもう一回投稿しないかな?」「これってリアル?」「彼女のいとこ、気味悪い」など、Snapchat 以外のソーシャルメディアで"Sickhouse"に関する膨大なコメントを生み出しました。
 
そして、あれから1ヶ月半。"Sickhouse"の完全版が80分映像としてVimeoでオンデマンド配信されます。価格は637円。Russettのアカウントを通じた配信から始まる企画全体のプロデュースはIndigenous Media。以下はPVです。
 
 
昨夏、"One Minutes Horror"というSnapchat上で1分間の物語を展開するプロジェクトがありましたけど、"Sickhouse"は「映像をパッケージ化」するオチが加わり、これが特に絶妙だと思う次第です。これをヒントに、より本格的な映画プロジェクトとか、出てくるかもです。
 
(via Fast Company

天才の仕業。本棚をテトリスに。

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本棚。自分の家にもありますが、これを本やモノを置く家具以外の目的で使う発想はかつてしたことがありません。

しかし、世界には天才がいるもんです。本棚のグリッドを使ってテトリスをやってみようと考えたのはØyvind Berntsenです。文字からしてトルコ人でしょうか。

 

 
本棚の各グリッドにLEDを設置して、それをコンピュータで制御して、テトリスのプログラムを動かす...ということだと思うのですが、そんな技術的なことより、この斜め上いく発想がすごいです。
実は、彼にとってテトリスは2つ目の本棚作品で、以前に彼女へのプロポーズ演出で「スネークゲーム」をつくったみたいです。こちらも「テトリス」と並ぶゲーム界の古典作品です。
 
 
プロポーズの返答は「Yes」。うれしいだろうな、彼女。これこそギークと付き合うメリットだと思う次第です。