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Campaign, more than anything

地下鉄職員の警備網をたくみにかわしながら、パリの広大な地下空間でこっそりと行われた創作活動

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Désenchantement, 2015. All photos courtesy of the artist

地下鉄を敷設することによって生まれたパリの広大な地下空間で、数年間に渡り、こっそりと創作活動をしていたアーティストRadouan Zeghidour。彼の昼の顔は学生ですが、夜は大都市・パリの地下空間を徘徊する男です。不正に地下に潜り、ひたすらアート活動可能な空間を探索。地下鉄路線脇に小さな空間を発見すると、その扉のドアノブにタバコを置いて、それが次回来た時に落ちていたり、なくなっていれば、そこは地下鉄関係者が見回りするエリア、そうでなければ大丈夫なエリアと...といった感じで可能性を判断していったそうです。

そうやって注意深く場所を決め、セキュリティスタッフの労働時間を避けつつ、いくつかの空間で数年かけて創作活動を実施。大部分は地下空間に転がっていた廃材などを使って創作したそうです。
 
地下に潜る様子や数々の作品がビデオや写真で公開されています。
 

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Citadelle, 2013

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Radeau échoué, 2014.

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Désenchantement, 2015

物理的な作品の善し悪しはよくわからないですが、地下に潜る「行為」の価値が圧倒的に大きい作品だと思う次第です。ただ、Zeghidourは最終的に全ての作品が完成し、上記ビデオをリリースすると共に、地下での活動全てを発表しました。また、その後、NYCでの作品展に発展したそうです。できれば、リリースせずにそのまま放置し、数年後、謎の作品として発見されて欲しかったところです。

 

数ヶ月前にはベルリンの地下鉄路線脇の空間に、IKEAの家具で装飾された謎の部屋が出現しました。こちらは誰の仕業かは依然判明しておらず、キープ・ミステリアスです。

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物理的な作品の美しさや鋭いコンセプトを退廃的な行為(違法行為)でカタチにするという点にストリートアートの魅力を感じますが、その「退廃的な行為」という部分をいとも簡単に包摂する商業主義のチカラは強大です。

今やストリートアートは広く市民権を獲得しつつあり、「ストリートアートは地域の不動産価値を高める」として「誘致を呼びかける」ような動きもあるそうです。そうなると、必然的に本来のカウンターカルチャー側面は削がれ、物足りなさを感じる次第です。

ストリートアートのスピリットごと、共存できる都市を望みたいです。

日頃凌ぎを削るライバル広告会社が「WAR」という名の下に手をつなぐPOST-IT祭り

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ソーシャルメディで影響力を持つユーザーが多く存在する業界ってどこか、と考えるとやっぱり広告クリエーティブ界隈ではないかと思います。個々人の発信力の業界別平均値では群を抜いていると想像します。

その広告クリエーティブ会社が集結しているエリアとしてマンハッタンの「マディソンアベニュー」が有名ですが、同じマンハッタンの「Canal Street」も中々の密集率のようで、そこに軒を連ねる広告クリエーティブ会社が束になって、#POST-IT WARを仕掛けており、話題になっています。#POST-IT WARとは、各々の企業がオフィスの窓にPOST-ITを使って思い思いのビジュアルを描く、フラッシュモブ的なイベントです。Havas Worldwide, Horizon Media, Cake Group, Biolumina and Harrison, Star, Getty Imageを含む、多くの会社が参加したそうです。
常に凌ぎを削っているライバル同士が、「WAR」の名の下に1日だけ手をつなぐという不思議な展開です。
 
スタートはこの"HI"から始まりました。ビルの真ん中あたりにひっそりと、です。
 
 
そして瞬く間に、このムーブメントは拡大。話を聞きつけた会社も慌てて参加する、というような事態に発展したそうです。
 
 
首謀者が誰か記述がないのですが、これが3Mが仕掛けた企画だとすれば、それぞれライバル関係にある各社のチカラを結集するという野望の大きさと、それを成就する豪腕ぶりには素直に吃驚するところです。そうでなければ、3Mにとって、これほどラッキーなことはありません。
 
実際は、マディソンアベニューに対抗する広告クリエーティブエリアとしての地域興し的な意味合いだと予想します。
今回の「POST-IT WAR」が大成功したことで、「Canal Street」の面々はエリア拡大を視野に入れた次なる「POST-IT WAR」を構想しているそうです。POST-ITという一商品がテーマとなって、メモを残すという本来の製造意図とは全く違う形でマンハッタンを巻き込む祭りが開催されることになれば、それはかなり凄いことだと思う次第です。
 
(via ADWEEK)

ミレニアル世代を引きつける新しいスポーツを開発し続ける「Whistle Sports」

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リオ・オリンピックまで2ヶ月半です。私の胸は一向に高鳴りません。胸が高鳴らないのは、続々と噴出する問題のせいではないです。

リオでは28競技306種目でメダルが争われるとのことですが、一部を除き、よくぞこれほど不人気競技を一同に集めたなと思う次第です。ロングテールの有名なグラフを見て、オリンピックを想像してしまいます。
 
きっと、ミレニアル世代にとってそれは、よりつまらないイベントだと想像します。彼らをオリンピックに引きつけるためには、既存のスポーツをよりオモシロくすると同時に、新しい魅力的なスポーツが置き換わっていくべきではないかと思います。(人生をかけている競技者のみなさんには失礼発言だと思っています。すみません)
スノーボードやマウンテンバイクなんかはその代表例だし、X-GAMEに含まれる競技なんかは新しい発想ですが、そういうのを生み出し、世界へプロモートするのはやっぱりアメリカです。
"Whistle Sports"は、ミレニアル世代向けの新しいスポーツを開発する会社として注目されているらしく、"Digital Content New Fronts"(動画メディアなどが広告主に、プレミアム・メディアパッケージやプレミアムコンテンツを売り込むイベント)でも存在感を発揮していました。
 
 
発表によると、"Whistle Sports"のオンラインファンは1億8500万人(前年比136%)、1日に2,000コンテンツ投稿、月間7億5000万視聴、月間視聴時間13億分、内部に400人のソーシャルインフルエンサーを抱えている、とのこと。そして、視聴者の75%がミレニアル世代男子。みんながうらやむミレニアルキラーです。
 
いくつかオモシロそうなプログラムをピックアップします。
 
Xpogo
 
 
Frisbee Trick Shot
 
 
Blasters Battle
 
 
そのまま「競技に」というわけにはいきませんが、アレンジすれば競技にだってなりそうな気がします。ビジネスとしては、アミューズメント~競技まで幅広い受容性があるほうが良いので、可能性があるかも知れません。
 
新しいスポーツの開発って、本来的にはスポーツブランドがやるといいのではないかと思います。ヒットして、用具で儲けて...みたいな考え方はありそうですが、実際やってるのは、このWhistle SportsやRedBull、ESPNなど、ほんの一部のスポーツブランドではないプレーヤーが取り組んでいます。
これからフットボールやバスケットボールといった王道を除く弱小スポーツに代わり、新しいスポーツが存在感を発揮していくならば、既存のスポーツブランドが下請けになったり、スポーツブランドではないプレーヤーが用具供給まで一手に引き受けるなど、市場構造が一気に変わったりすることもあるのかな、とか思ったりする次第です。
 
(via ADWEEK)

スタッフに勝手にフォトショップされて激怒し、PVを引き上げるミーガン・トレーナーの迫真の演技でアルバム大ヒット間違いなしだとしたら、結構ボロい

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ミーガン・トレーナー。ぽっちゃり系カリスマシンガーです。

フォトショップを嫌悪し、惜しげもなくそのぽっちゃりを見せつけ、ヒット曲をかっとばすミーガンは、女性を勇気づけ、自尊心を高め、さまざまな制約から解放するムーブメントの象徴でもあります。
 
そのミーガンが5月9日に新曲「Me Too」のPVを公開。18日にセカンドアルバム「Thank You」の発売を控えており、このPVを何とか盛り上げたい所です。
そんな中、公開直後、PVの中のミーガンのウェストがフォトショップ加工されて細くなってることをファンのインスタグラムを通じて発見。
 
 
激怒したミーガンは速攻でPVを引き上げ、こんなビデオを投稿しました。
 
 
うんざりしている。でもくよくよなんてしない。元通りになるまで、ビデオは引き上げることにした。私のウエストはあんなに細くないし、撮影の時のウェストはセクシーだったのに、なぜ?こんなビデオが出るとは思っていなかったし、こんなのが世界中に拡がったことがとっても恥ずかしい。それでもこのPVは気に入っているし、誇りに思っている。でも、私の肋骨を勝手に折られて頭にきてるわ。
 
その後、引き上げから1日たたずして、元通りになったビデオがリリースされ、このいきさつがメディアでバシバシとりあげられました。
 
 
そして、「ちゃんと元通りだよー」とインスタで報告。このビフォア・アフターで、エグい加工だったことがわかります。
 
 
PRの要諦は世の中の空気を読むことです。世の空気はアンチフォトショップであり、女性の自尊心を大切にすることです。彼女の支持基盤も、その空気に感化されている女性たちです。このドタバタ劇を見て、ミーガン、うまくやったなと思う次第です。
 
ミーガンと仕事をしている人間は、ミーガンがなぜ売れているか重々承知のハズ。そんな人たちが無断でフォトショップ加工するなんて考えられないです。また、ミーガンのようにセルフプロデュースにたけた人間が仕上がりを確認しないというのも同じく考えづらいです。
この迫真の演技でセカンドアルバムが売れれば、笑いが止まらないですね。
 
(via USA Today, Vox)

史上初・満票でNBAシーズンMVPに輝いたステファン・カリーの活躍が人間離れしていてビデオゲームの中のカリーの動きが全く追いつかず、ファンが悲しんでいるらしい

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ステファン・カリー(NBA / Golden State Wariors)。

史上初、満票でNBAシーズンMVPを獲得した規格外の男です。自身の3ポイント記録を塗りかえる2015-16シーズンの活躍があまりに変態的すぎて、リアルなカリーと"NBA2K16"(ビデオゲーム)のカリーの動きに大きなギャップが生じ、ファンをイライラさせているそうです。

こういうシチュエーションになれば、良いショットが打てるとか、悪いショットになるとか、ペナルティを食らうとか、現実をもとに、かなり細かく設定されているそうですが、リアル・カリーはそういうゲームの設定を軒並み越えていて、仮に、ゲームにおける現状の最高レーティング「99」を与えても、リアル・カリーに及ばないかもしれない、という状況らしいです。恐るべき男です。

とはいえ、NBAがクライマックスに向かう中、"2K17"(来期バージョン)発売まで状況を放置しておくわけにはいかず、今週木曜日の6 p.m. ETから30時間(30=カリーの背番号)、カリーのレーティングが「99」になるアップデートパッチを配布することになりました。下手にレーティングを上げるとゲーム全体のバランスが崩れ、「ハーフコート越えたら3ポイントで決まり」みたいなことになるらしく、かなり大変な開発だったようです。アップデートは頻繁に行われているそうですが、これはかなりスペシャルなアップデートです。
そして、このプロジェクトがカリーのスポンサーであるUnder Armerと協働で実施されているというのがまたオモシロイです。
これは、Under Armerがリリースしたビデオです。
 
 
MVP発表直後、プレイオフ真っ直中と、NBAファンの食欲が旺盛なタイミングでのこれです。Under Armer、うまくやったと思います。
 
よくメッシのアメージングなスキルの比喩として「プレイステーションのようだ」みたいな表現が使われますけど、カリーの場合に限ってはその表現が使えないということになります。色々な場面でコンピュータに連敗している人間ですが、人類にはまだカリーがいるぞって感じがイカしていると思った次第です。
 
(via ADWEEK)

ダミアン・ハーストの炎上商法的手法を見て、アートの名の下に行動すれば、ひょっとしたら「人殺し」でも許されるのではないか、と思ったりした。

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The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living, 1991

現代アートの「価値基準」は難解です。「レディメイド」(デュシャン)だって、理解したフリをしていますが、心の奥底では「不必要なモノを買いたい気にさせる広告」とさほど変わらない、とか思っていたりします。

その現代アートトップランナーダミアン・ハースト」の90年代~の代表作に"Natural History"というシリーズがあります。「牛やサメ、羊などの動物を、縦半分に切断したり、輪切りにしたりして、そのままホルムアルデヒト漬け」した、「生と死」をテーマとする大胆且つグロテスクな作品ですが、先月20日頃、作品から有毒ガスが発せられるとの告発があり、いろんなメディアで記事になりました(ハーストはそんなリスクはないと断言しておりますが...)。
 
この記事を見て、企業のように販売済み作品の回収に至るのかな、とか、裁判にならないか、などと世の常識に照らし合わせて考えを巡らせていたのですが、先週末の"Frieze New York"に堂々と出展しているのを見て驚きを隠せない次第です。
 
"Frieze New York"は、全世界から約200のギャラリーが参加する、ロンドン発のビッグなアートフェアであり、世界最大のギャラリー「ガゴシアン」ブースの一角に"Natural History"が鎮座しておりました。(ギャラリーのコメントによると解決したとありますが)

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有毒ガスが発生するとの告発によって、その文脈が逆に作品価値に還元されると読んだのではないかというのが、現地を訪れた知人の読みです。ハイコンテキストな現代アートです。難解です。ハーストはガゴシアンとは契約終了していたのですが、このタイミングを狙って再契約したようです。アーティストとは、ビジネスマンであり、マーケターであり、PRマンです。
 
思い起こせば、昨年の"Frieze New York"で、他人のインスタ写真に謎のコメントを残した上でスクリーンショットし、それをそのまま拡大プリントして90,000ドルで販売するという荒技を仕掛けたリチャード・プリンスの一件なんかでも、同じように「炎上転じてチャンス到来」現象がおこりました。
 
この炎上商法的なやり方について、こんな話を聞いたことがあります。
中世の頃、領主が美しい花の画を購入し、民衆の間でその美しさが話題になったんだけど、領主は単に美しい花の画というだけでなく、その花びらに込められた女性器のコンテクストにまで価値を感じており、民衆との価値観の差こそが作品に対する満足感になっている。
普通なら炎上は大きなリスクになりますが、アートの場合は火をくべる人と買う人が全く違う価値観や階級意識を持った異なる世界に暮らす人種なのでこういうことが成立するのかなと思います。
 
アートコレクターにとって、現代アートは、その歴史を鑑みつつ、アートの可能性にチャレンジすることとして見えるのではないかと思いますが、一方で、その他大勢にとっては、アートとはあらゆる罪をなきことにできる「免罪符」のような存在に見えるのではと思います。アートの名の下に行動すれば、ひょっとしたら「人殺し」「強盗」でも許されるのではないか、と思う次第です。
 
 
 

終わらない戦争。子供たちにとって、まだまだ続くショッキングな毎日

 

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Most Shocking Second a Day。「Just because it isn't happening here, doesn't mean it isn't happening(ここで戦争が起きてないからといって、世界で戦争が起きていないわけではない)」

シリア内戦の被害を受けた子供たちを支援すべく、Save the Children 財団が「ロンドンで戦争が起こったら、あなたの子供たちはどんな日々を過ごすのか」という設定で 制作した、募金プロモーション映像です。2年前、この映像を見たとき、底知れない恐怖を覚えました。幸せそうな誕生日シーンから、1日1秒のカット割りで戦争に向かって展開していくスピード感に、平和の儚さを感じました。5,300万回以上視聴されてますが、皆同じように感じたのではないかと思います。

 

 
Still the Most Shocking Second a Day。終わらない内戦、子供たちへの被害拡大・長期化をうけた続編映像がリリースされました。内戦が酷くなり、母と別れて、ボートに乗って国を離れ、ボートは転覆するも何とか浜に漂流し、難民キャンプに辿り着き、誕生日を迎える...という展開(実際、昨年9月以来、340人の子供難民が溺死しているそうです)。家族、国、教育、全てを失った子供の悲惨さが描かれています。
 
 
戦争が始まって5年、死者は47万人、難民は480万人以上。まだまだ終わりそうな気配がないです。何と締めくくってよいのかわかりません。シリアに平和を。それ以外ないです。