カンヌライオン2013 感想&記事まとめ
カンヌ初参戦してきた感想をまとめます。
今年のカンヌは60回目のアニバーサリーということもあってか、セミナーゲストがとても豪華だった。
Jack Black(俳優),Sean Combs(アーティスト),Lou Reed(アーティスト),Anderson Cooper(CNNアンカー),Conan O’Brien(コメディアン),石井裕(MIT),David Karp(Tumblr),Rem Koolhaas(建築家),Vivienne Westwood(デザイナー),Martha Stewart…そしてPerfumeなど。
これほどのメンバーが1カ所に集まることはそうありません。カンヌのスケールを感じました。
自分が最初に参加したのはCoca-Colaのセミナー“Work That Matters”。1955年以降、Coca-Colaが如何に世の中を良くすることに貢献するコミュニケーションを展開してきたかを紹介する内容。
米国で公民権運動真っ盛りの中、アフリカンアメリカンを広告に起用し、以降一貫して白人とアフリカンアメリカンを「ユナイト」するアプローチをとったり、子供たちと社会の関わりを育んだり、直近ではインドとパキスタンという紛争当事国をベンダーで繋げる“Small World Machine”など…ブランドは世の中を良くする意識を持つべきだ、とおっしゃっていた。いきなり“Social Good”出た!って感じでした。
こういった「善行」はそれとなくすべきなのか、主張すべきことなのか…地域の文化的な要因もあり、とても難しい問い。最終的には商品を買ってもらう為の高度な偽善にも見えかねないからです。個人的には前者の考えが強いけど、セミナー終了時のスタンディングオベーションの嵐を見る限り、世界の多くの国では後者なんだろうと思いました。
Time Warnerの“What Connects In Comedy”は楽しみにしていたセミナーの1つで中央最前列を確保して鑑賞。というのもメインスピーカーがConan O’Brien(コメディアン)で司会がAnderson Cooper(CNN)という豪華キャスティングだからだ。
ConanにとってSNSは無くてはならない存在で、SNSによって視聴者を獲得し、SNSによって放送コンテンツを創っているという話から入って、やがて「広告の金は欲しいが広告はいらん! 広告なんてみんな観ないよ」という若干場違いでショッキングな話に。
ここで「広告主からの要望は無く、Conanが番組内で自由にゲームソフトをもて遊んだ結果、ソフトも売れた」…という事例が紹介された。つまり、広告主は無理に広告しようとするのではなく、メディアと視聴者のエンゲージメントの上にうまくのっかればいいんだよ、ってことではないかと解釈しました。
その上で"Advertisers Are Scum!"って叫んでいた。仮にもカンヌでよくこんなこと言うよな。
あと、日本のクリエーティブラボ「PARTY」による“Prototyping Communication”では“Innovation isn’t Everything”“Emotion is Everything”というキーワードが印象的だった。
いかにして人を動かすか。基本に立ち返らせてくれる言葉でした。
会場から徒歩5分ほどの場所にはGoogle Sand Boxというのがありました。Googleがプロデュースするビーチハウスです。Googleが開発に携わったゲーム“World Wide Maze” “Burberry Kisses”なんかが設置してあった。セッションやパーティなども行われていたようです。Googleらしい遊び心の雰囲気がかなり良かったです。
これを見て「社風」って大事だなと思いました。ビーチにたくさん人が来るからといってビーチで広告してもダメ。ビーチに似合う奴じゃないとダメなんですよね。
若い頃、ビーチハウス運営会社で働いた血が騒いだのか、カンヌでビーチハウスしたいなぁ。
そして、カンヌと言えばアワードな訳ですが、5冠王に輝いた“DUMB WAY TO DIE”を始め、“Social Good”が幅をきかせていましたし、多くの部門のショートリストで“Social Good”が目立っていたように思います。ソーシャルネットワークで世界中の人々が繋がって監視が厳しくなる中、ブランドも広告業界もプライオリティのトップに「誠実さ」を置かざるを得ない状況ですが、一方で“Social Good”な作品が世界中から多数エントリーされたお陰で、23.7億円という史上最大のアワードエントリー料収入を記録しつつも、その内幾らかが社会の役に立つ為に使われるという話が聞こえてこない、という空疎さが気になります。原価を想像すると怖くなります。
また、“Social Good”が受賞の近道だとすれば、「良いことは黙ってやる。後から誰かに発見してもらったらそれはそれで良し。基本は大騒ぎしない」という日本的なメンタリティはカンヌの賞レースに向いていないというのもあるかも知れません…と少し思いました。
そして、Red Bull“Stratos”がエントリーしないというのも気持ち悪く感じました。Red Bull“Stratos”は高度約39kmからマッハ1.24でスカイダイブするいう人間が限界にチャレンジする想像を絶する企画。準備に2年を要し、中継も盛り上がったことから、これが出れば幾つかのグランプリを獲るというのが大方の予想でした。
これに対するRedBullの見解が「自分達自身のことを語るのではなく、何をするかに集中したい」「カンヌは新しい領域のことを考えているけど私達のプロジェクトはそうではない」「目指しているのは五輪やスーパーボールといった既存のスポーツイベントに対する新しいスポーツイベントや競技の開発」…など。
とてもクールなコメントで直接的に批判する要素は無いものの、広告という枠を取り去って多方面に拡張を志向するも、逆に何のイベントなのかが曖昧になりつつあるカンヌに対する批判・不満もありそうな感じ。
(via Creativity Online)
また、今年からIntelがスポンサーとなって“Innovation Lions”なる新カテゴリーが立ち上がった。
内容は「ブランドやクリエイティブが顧客とコミュニケーションする新しい方法を実現するプラットフォーム、アプリ、ツール、プログラム、ハード&ソフトウェアで独自で成り立っている技術・発明を讃える」というもの。
そして、グランプリを受賞したのはCinder。
しかし、これには技術に詳しい方々から異論がありました。僕が拝見したのはPARTYの清水幹太氏のFacebookのコメント。
...Cinderそのものはとても素敵なものですし、良いものです。たくさんのパーティクルを使って超かっこいいモーショングラフィックをつくることで有名なFlight404のロバートさんなんかも、さっそくCinderでかっこいいサンプル映像をつくっています。
ところが、設計思想も構造もあまり変わりのない、しかし、世界中で多くの人が既に使っていて、様々な現場で利用されている先行フレームワークがあります。
それがopenFrameworks(oF)です。(中略)
今回はそういうところで脈々と受け継がれてきている「誰でもプログラミングできるようになるぜ!」的な設計思想の話でCinderが褒められているように見えたから、そこで「俺たちが考えましたー」的にプレゼンしちゃってる感じを「ダッセー」とか思ったりもするわけです。
そこは8年前からあるじゃん、という。
あんまり賞がどうこうでもないけどprocessingがアルスエレクトロニカ受賞したの2005年だし。
個人的には、Cinderがカンヌでイノベーション賞を獲っても、「うわー笑」くらいな印象しか無いのだけれど、広告の世界はわりと、「そんなの、あれ、あの、カンヌで賞獲ったやつ、あーそうそう、Cinder使えばできるんじゃないの?」みたいなやりとりがすぐに勃発しがちな世界だから、「いやいやそうじゃなくって、今までと別に変わらんのですよ」ということと、oFとかprocessingというものが既にあるんですよ、ということは言っておいた方が良いかなと思い、書きました。...
※全文はこちら。
それ意外にもCBCNETに長文記事があがっていたのですが、これは何故か1日足らずで消えました。何か不都合なことがあったのでしょうか。もう一度読みたいです。
業界の拡張志向に審査の視野やレギュレーションが追いついていないということなのか、エントリーしないと賞を渡せないことの弊害かどうかわかりませんが、新しいことを始める時に最初からうまく行くことは難しいとは思うので、今後、この賞がどういう方向で発展するのか、注目したいと思います。
その他、個人的に期待していたのが、広告代理店が広告提案を超えて商品の提案をするという例。それ程多くは見つからなかったですが、その中で印象に残ったのは、JWTがフレグランス・ブランド“Givaudan”と組んで開発した、認知症などの閉ざされた記憶を「香り」によって刺激し、思い出させる“Smell a Memory”なるを商品。既にシンガポールで実施し、一定の成果を上げているとのことでした。
開発分野が「医療」、しかも治療困難な「認知症」ということで素晴らしいと思いました。
自身の最終日、帰り際に急いで“Game Changer Exhibition”という過去60年のカンヌ作品を振り返る展示企画を見ました。過去の秀作が集められているから当然かも知れませんが、唸りまくりました。Social Goodでも何でも無いですが、どれもシンプルで力強く、クリエーティブの凄さを強く感じました。
良いクリエーティブで生活者をひきつけ、ファンになってもらう、買ってもらうという業界の原点を見ることが出来て良かったです。
その中で特に気に入った作品を紹介します。
Still Free(ECKO)
大統領専用機“Air Force One”の基地に潜入し、落書きし、そのシーンをホームビデオに収めて拡散するという凄すぎる作戦。どちらかというと“Social Bad”な作品です。
何かこうやって振り返ると「昔は良かった」みたいな懐古主義的で批判的な感じがしますが、個人的には、新しい業界の在り方を模索している最中のカンヌに参加できたことに満足しています。
僕自身がクリエーターでは無いにも関わらずクリエーターの祭典に参加したのでこういう見方になりましたが、クリエーターの視点、作品をエントリーしている人の視点だと全く違ったフェスティバルに見えるのでは無いかと思います。
※以下、カンヌ関連記事リスト
〈アワード関係〉
- PR Lions
- Promo & Activation Lions
- Direct Lions
- Creative Effectiveness Lions
- Media Lions
- Mobile Lions
- Outdoor Lions
- Innovation Lions
- Design Lions
- Press Lions
- Cyber Lions
- Radio Lions
- Branded Content & Entertainment Lions
- Titanium & Integrated Lions
- Film Craft Lions
- Film Lions
〈その他〉
- AKQAのFuture Lions
- カンヌ史上最大のアワードエントリー料を記録、23.7億円也
- カンヌで見つけた世界最強の100+スライド2013
- カンヌで痛恨の見逃し“New Directors' Showcase”
※追記:個人的に思うカンヌのテーマ
表テーマ①:ソーシャルグッド(個人的にはうんざり)
表テーマ②:ストーリーテリング(商品の差異で人が動かないなら物語で動かす ex. Dove)
表テーマ③:本気でクリエイティビティ(よりアーキテクチャ寄りの思考)
裏テーマ①:ソーシャルグッドの裏で儲けるカンヌ主催者
裏テーマ②:業界の拡張思考と実態とのギャップ(Cinder論争など。変化ってこういうものだと思うけど)
裏テーマ③:RedBull不在(カンヌへのアンチテーゼ)