Campaign_Otaku

Campaign, more than anything

なぜ、Grey Pouponはラッパーに愛されるのか?

f:id:y_sequi:20161022174008j:plain

The Life of Pablo / Kanye West

2016年2月にリリースされたこの曲に、こんなリリックがある。

"Yeezy, Yeezy, Yeezy, this is pure luxury / I give 'em Grey Poupon on a DJ Mustard, ah!"

 Grey Pouponとはフランス生まれの白ワイン入りマスタード。ラグジュアリーなブランドとしてアメリカでそこそこ知られた存在なんだけど、ここ20年でラッパーのリリックに頻繁に使わるようになった。そこそこ知られているといってもコーラやペプシほど身近ではなく、食卓ではまあ地味な存在だ。それにラグジュアリーブランドとラップでは世界観が違い過ぎる。

なぜ? その理由がこのビデオで語られている。

Grey Pouponは、1866年フランスで生まれ、1946年アメリカに上陸。当初は「Cosmoplitan」「Food&Wine」などアッパークラス向けの雑誌広告に集中していたが、1981年に初めてTVCMを投下した。

このCMのラストで紳士が言う"Pardon me, do you have any Grey Poupon?"が全米中で有名なフレーズとなり、売上は100%アップ。以降10年間、このクリエーティブを基本に、列車や飛行機、ヨットなどの旅シーンでCM展開した。

そして、90年代に入って、クライアントの要望により表現をチェンジすることになった。Lee Garfinkel(クリエーター)が新たにCMを担当することになり、"Pardon me, do you have any Grey Poupon?"を活かしつつ、紳士2人がやり合う表現を採用、セールスも再浮上した。

そして、時を同じくして(1992年)、Das EFXなる2人組ラッパーのデビューアルバム「Dead Serious」収録曲「East Coast」のリリックに初めて「Grey Poupon」が登場する。因みにシングル曲「They want EFX」はビルボードでトップ10入りを記録した。

更に、その1ヶ月後、人気番組「Wayne's World」で20代の主人公2人が自動車の後部座席に乗っている年配の人に"Pardon me, do you have any Grey Poupon?"とからかう、CMパロディがオンエアされて話題になった。

f:id:y_sequi:20161022031842p:plain

その後、ラッパーがGrey Pouponをリリックに組み込む回数は毎年着実に積み重なり、2016年までに118曲を数える。

f:id:y_sequi:20161022032942p:plain

韻を踏みやすいワード

Grey Pouponがこれほどまでにラッパーに愛される理由の1つは「Poupon」が恰好のリズムワードであり、「futon」「neuton」「crouton」「coupon」など、韻を踏みやすいことにある。「coupon」との組み合わせだけで全118曲中20曲、「futon」「crouton」が各7曲ある。

更に、Grey Pouponは「アッパークラスのシンボル」であり、それを持つことが「自慢」であり、ラッパー自らの貧しさとの並置によって強調される。例えば、"But I want to be in that limo askin' for the Grey Poupon, for a change / I'm sick of savingchange from a coupon."なんて、わかりやすいリリックだ。

その他にも何度も繰り返し韻を踏んで「ラップスキルを見せつけやすい」とか、セクシャルなテーマでも使えるとか、Grey Pouponにはラッパーにとって魅力的な要素が多い。

ヒット曲に採用されるとみんなが使い始める

2007年以前の10年、Grey Pouponは広告展開しておらず、リリック登場回数も比較的少なかったんたけど、2006~7年に「We Fly High / Jim Jones」など、幾つかのヒット曲で採用され、また、これにタイミングを合わせて広告展開を再開したこともあってか、2007年以降、数が増えていることが、上のグラフからわかる。Jim Jonesは他の曲でも採用したし、NellyJay-Z, Kanye Westといった人気ラッパーなども使い始め、グラミー賞のノミネート作品にも採用されるようになった。

有名ラッパーが使い始めると、みんなが使い始め、Grey Pouponに注目が集まる。英語圏から飛び出し、オランダのラッパーがGrey Pouponをリリックに取り入れたりもした。

 

音楽って一度誰かが使ったら二度と使わない、真似しないかなと思っていたら全く逆で、有名な誰かが使ったら、みんなどんどん使い始める、一度使った人がまた使うというのが不思議な世界。こうやってラッパーに愛されることとGrey Pouponの売上にどれほどの因果関係があるかはわからないけど、Grey Pouponにとっては大きな財産です。

それにしても、よくこのファクトを発見したなと思う。

※こちらの頁中段に、インタラクティブタイムラインがあります。ほぼ全ての曲のGrey Pouponを含む一節だけを視聴できます。

※また、全ての「Grey Poupon曲」を網羅したSpotifyプレイリストが公開されている。

(via Vox)