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カンヌライオンズ、プロダクトデザイン部門で偽りのクレジット事件

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先日「カンヌライオンズの浄化が始まったか」などと書きましたが、今、現地ではカンヌライオンズのいやらしい部分が露わになっているようです。事の発端は"The  Lucky Iron Fish"(Geometry Global Dubai)がProduct Design Lionsのグランプリを受賞したことに始まります。

カンボジア国民の50%が鉄分不足で、特に妊婦や子供の鉄分不足が認知障害や成長障害につながりやすく深刻な問題になっていることを受け、カンボジアの幸運の象徴である魚を象った鉄塊"Lucky Iron Fish"を開発し、販売。鍋に入れて調理する習慣を定着させることで、9ヶ月間で約50%の人々の鉄分摂取量を改善した。製造にあたってリサイクル原料を使ったこと、現地の人たちに製造からマーケティング、販売までを任せたことも含めて評価された。

所がProduct Design Lions グランプリの発表後、Geometry Global Dubaiが"The Lucky Iron Fish"デザイン作業に関わっていないとの声が上がった。その声の主はシンガポールのエージェンシー"Arcade"の共同創業者であるGary Tranter。

Tranterによると事の真相は...

Geometry Global Dubaiから、"The Lucky Iron Fish"の知名度を上げるために、ArcadeがGoogleの依頼で撮影した"The Lucky Iron Fish"の映像を使わせてほしいとの連絡があった。あまり気が進まなかったけど、寄付を募るためのPR目的に使用するとのことだったので許可した。全てはプロジェクトの価値を高める為に。所が、彼らがProduct Design Lionsグランプリを受賞し、彼らのケーススタディビデオには、さも彼らが"The Lucky Iron Fish"を考案したように描かれていて驚いている。"The Lucky Iron Fish"をデザインしたのはChris Charles(Wikipedia参照)であり、ケーススタディビデオにはArcadeが撮影した映像、作った音楽、考案したワードが勝手に使用されている。これがPR部門の受賞ならば良いかもしれないが受賞したのが"Product Design"部門というのはおかしい。

"Bullshit !"と相当怒っている感じです。

そして、この騒ぎに対してカンヌライオンズの事務局が声明を発表した。事務局が"The Lucky Iron Fish"の運営会社のCEO Gavin Armstrongに確認した所、

Geometry Global Dubaiとは宣伝・PR業務においてパートナーシップ契約を結んでおり、カンヌライオンズのエントリーについても一任している。今回の件は、エージェンシーがカンヌライオンズのルールを勘違いしていたことが原因で、全てのカテゴリーに渡って、1つのエージェンシーがエントリーしなければならないと思っていた。

一方、Geometry Global Dubaiは

エントリーについては透明性が確保されており、"The Lucky Iron Fish"の運営会社やデザイナーのChris Charlesにも確認をとっている。"Product Design"部門についてはクライアントの代理としてのエントリーという意味合い。

と語っている。

結論としては"The Lucky Iron Fish"のProduct Design Lions グランプリ受賞は変わらず、Geometry Global Dubaiのクレジットが取り消しになり、"The Lucky Iron Fish"の運営会社が受賞することで事態は収束されたようです。勿論、Geometry Global Dubaiにはカンヌライオンズにおけるエージェンシーやネットワークのランキングポイントも付与されません。

Geometry Global Dubaiは本当に「全てのカテゴリーに渡って、1つのエージェンシーが応募しなければならない」と勘違いしていたのか...が焦点ですが、真相はわかりません。ただ、Geometry Global Dubaiは世界最大のエージェンシーであるWPPグループの一員であり、知らない筈はない...と考えることもできます。

エージェンシーのカンヌ受賞至上主義は業界を皮肉ることとして度々語られますが、このような暴露事件は初めてかも知れません。カンヌライオンズは表の顔よりも裏の顔の方が断然興味深いです。

(via Campaign Brief Asia 1,2)