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カンヌライオンズ2014〜カンヌの裏表


昨年に続いてカンヌライオンズ2014に参加できる幸運に恵まれました。参加してみて感じたことを"表テーマ"と"裏テーマ"としてまとめてみます。

表1. データをクリエーティブでストーリーに昇華

昨年も少なからず語られていた"データ"ですが、今年はデータのような渇いた要素をクリエーティブでエモーショナルなストーリーへと昇華させる具体的なケーススタディがいくつか登場しました。
例えば、フライトデータとデジタルサイネージをリンクさせた"Magic of Flying"(BA)は子供の頃、空飛ぶ飛行機を見上げて感じた何とも言えない憧れの気持ちを思い出させ、"Sound of Honda"は、セナの1989年の鈴鹿での伝説的な走りの走行データを使って、現代にセナの走りを再現した。


どちらもグランプリを獲得した今年の代表作品。来年はこの方向で、より多くの、より新しい表現方法が期待できそうです。
※追記: レイ・イナモトさん曰く、DATAではない、それを料理するギークが重要なんだ。DATAではどうにもならない。(WHY THE FUTURE OF MARKETING BELONGS TO GEEKS AND FREAKS/Fast Company)

表2.瞬間的・反射的広告

24時間365日世界中で稼働しているSNSはクライアントにとって多大なチャンスが潜んでいる。例えば、スーパーボール2013の停電事件にタイミングを合わせたOREOのこのTweetはかなり話題になった。

ここ数年、このようなビッグイベントに合わせ、デザイナーとコピーライターをキャスティングしつつ、イベントを徹底的に監視し、そこで起こった事件を受けて、コンテンツを即興で創ってSNSにポストして話題を浚うということは各地で行われた。
そして、その流れは"24時間365日世界中でチャンスを逃さない"という所まで進化している。Coca-Colaのセミナー"Winning in Realtime"によると、世界23箇所でソーシャルメディアを監視するHubを立ち上げ、その情報をアトランタに即座に集約し、数時間以内にHustle(クリエーターなどのユニット)が、Hubからの情報をもとにソーシャルメディアコンテンツを精製する。また、ソーシャルメディアで発見したユーザーとのコラボレーションも積極的に展開する。世に流通するCoca-Colaのコンテンツの85%程度がユーザージェネレーテッドで、それらの機会を絶対に逃さないと語っていた。"Silence is not an option."はとても印象的な言葉です。
セミナーではWorld Cupの動きを徹底的に監視しているチームとストリーミングで繋いでいた。

Coca-Colaほどの資本力を有する企業は数少ないので、誰もができる訳ではないけど、こういった瞬間勝負の運営系クリエーティブがカンヌで評価される時代が来るかも知れない。
※追記:参加していないんですが、R/GA & Beats by Dreのセミナー"Building a 3 Billion Dollar Brand"でも以下のような話があったようです。

2013年のMTV VIDEO MUSIC AWARADSで、ロビン・シックとの共演の際にマイリー・サイラスが過激なパフォーマンスをして騒ぎになりましたが、「マイリーが何かやるらしい」と聞きつけた彼ら、数時間でそれをネタにしたCM を作り、マイリーのパフォーマンス後すぐのタイミングで放映したそうです。「MTVだからって準備に半年必要なわけではない。テレビでもネットでも、メディアの種類に関係なく、カルチャーのスピードでコンテンツを作ることが大切」とも言っていました。

(via AOI Kokusai blog)

表3.映画・ドラマ関係者を巻き込むストーリーテリング


"広告であると思って撮っていない。ストーリーテリングだと思っている”(Photographer : Annie Leibovitz)や“ストーリーテリングは発明の基礎”(Google X : Astro Teller)...など、昨年も"Storytelling"は強力なキーワードだったけど、今年も健在。商品間の機能差がなくなりつある今、共感できるストーリーこそがユーザーがブランドを選択するフックになるとのことで"Storytelling"が大いに語られている訳だけど、今年は"Storytelling"関連のセミナーに"Veep""Game of Throne""Walking Dead""Down Town Abbey"といった人気ドラマ・映画関係者や韓流ドラマ関係者など映画・ドラマ界のキーマンが大勢参加していたように思う。
いずれも"Storytelling"の源みたいなことを質問されて、忍耐強く考えること、とか、最後はガッツだ、とか、よく世の中の動きを観察すること...みたいな有り体なことしか言ってくれなかったのは残念だったけど、来年はこういった人たちが広告づくりに続々と参加するのではないかと感じた。
そして裏です。

裏1.どこまで増えるカテゴリー問題


今年は新たに"Product Design"部門ができ、また、"Lions Health"というヘルスケアだけのイベントが立ち上がった。この"Lions Health"の中にも"Pharma"部門と"Health & Wellness"部門がある。全部合わせると19部門だ。
一方で、Cyber部門について、今やネットを使わないキャンペーンは皆無に等しく、Cyber部門不要論を唱える人もいる(Mobile部門も同じ理由で疑問を感じる人はいるようだ)。また、Cyber部門は今年は3作品がグランプリを受賞したが、その内"The Scarecrow"(Chipotle)や"Live Test"(Volvo Truck)はそれぞれ、オンラインゲーム展開やVolvoの機能体験サイトが評価されたということになっているけど、話題になった映像展開のインパクトが強く、そこに引っ張られた感もあるのではないか? それはCyber部門の評価と言えるのか?
この10年でカテゴリーは13部門増えており、その拡大スピードは凄まじいが、そろそろ整理統合というのも必要では無いかと思う。勿論、カンヌライオンズは広告関係会社のセールスを賞で支援する、またクリエーターの転職を賞で支援するイベントではあるけども...。
しかし、来年新たにData部門B2B部門、Music部門などが追加検討の対象になっているようだ。どこまで増えるのだろうか。そして、どこまで儲けるのだろうか。(What's Next for Cannes in 2015: More Categories -- or Less?)

裏2.広告会社行儀悪い問題(似非ソーシャルグッド部門)


今年もソーシャルグッドの押し売りは相当なものだった。個人的には"似非ソーシャルグッド部門"を立ち上げて、グランプリや金賞を発表してトロフィを贈呈したいぐらいだ。その中でもグランプリ候補なのが...
#SOMOSTODOSMACACOS #WEAREALLMONKEYS

FCバルセロナダニエウ・アウベス選手がコーナーキックの際に投げ込まれた人種差別の象徴であるバナナを、ボールをセットし、蹴る前に拾って食べたことに端を発し、ネイマールを始め、世界中のフットボール選手やセレブリティがバナナを持ったSelfieをソーシャルメディアにポストし、人種差別への抗議の姿勢を表し、最終的にはNBAのLAクリッパーズのオーナーのNBA永久追放にまで繋がった。
そして、この現象がPR部門の金賞を受賞した訳だけど、"INSTITUCIONAL"なる広告代理店が全て仕込んだということになっているんだけど、その事実を語ったためにキャンペーンに批判的な意見が噴出している。黙っていた方が良い類の話なのに喋ってしまったために効果が薄くなってしまった。広告業界の仕事って言わない方が良いこともあるんだと思う。
また、去年Cyber部門でエントリーしたサンシャインシティの"PENGUIN NAVI"が、今年はDesign部門でエントリーするという変なことも起こっているらしい(土屋さんより)。
その他、個人的に気になったのはカンヌの物乞いの多さだ。これだけ世界中でソーシャルグッドを企画しまくっている「良識のある優しい広告マン」が集まっているのだから、パーティ料理を折に詰めてあげるとか、みんなが1ユーロずつ出し合って、カンヌライオンズ期間中だけは幸せな日々を過ごせるように、会場付近にプレハブ宿をつくってあげるとか...何かできなかったかと思う。来年、万が一参加することがあれば、彼らのために何か考えたい。

裏3.何のイベントかわからん問題


「世の中を変える」「世の中をよくする」という言葉とクリエーティビティがセットになって先行するカンヌライオンズ。でも、本当はクライアントのブランド価値を高めたり、ビジネスを加速させたり...ということが普遍的な評価ポイントではないのか(たぶん)。数年前に"Advertizing"から"Festival of Creativity"になってから、こんな感じになったのだろうか。しかし、そういう「世の中を変える」「世の中をよくする」という話になると、GoogleIntelFacebookあたりのダイナミックな世の中の変え方とソーシャルグッド・キャンペーンとの差が大きすぎて、双方が1つのイベントで同じ言葉を全く異なるスケールで語っていることに少々違和感を感じた。
カンヌライオンズ2013では"エントリー作品の中に何一つ心を揺さぶる作品は無い""僅か数万人や数十万人に影響を与えたぐらいで何がクリエイティビティだ!""クリエイティビティというならもっとアーキテクチャレベルから取り組まないと"といった言葉がGoogleFacebook、石井先生(MIT)のセミナーで語られていたけど、それを思い出した。

番外:カンヌライオンズ高杉問題


そして、最後に過去2年間参加した個人的な疑問。参加料2,710ユーロ(1週間)って高すぎないか?(昨年から150ユーロ値上げ) 実際には20%の付加価値税が加わって、3,252ユーロ(458,000円)だ。セミナーやフォーラムは良しとして、エントリー作品のパネルを並べた展示。エントリー作品を閲覧できる数少ないPCや情報端末。こういうのってネット上で広く公開されるのが今時ではないだろうか? せめて目立った作品の実物を展示するようなイベントらしい企画があっても良いのではないかと思う。また、世界のクリエーターと話したり、アワードセレモニーに参加することは素晴らしい体験だけど、そこまで価値あることなのだろうか? 後は広告代理店の人を接待するとか?(そういう人は多かったように思う)...そんなこと言うなら来なくていいよって言われそうだけど、率直にそう思いました。
リエーターでない人、広告を企画したり、作ったりするような広告界の中心的仕事から外れている人だから、こう思うのかもしれませんが。